粉々になった水の結晶を見やりながら、ディーワは苦笑を浮かべる。
……友人殿は相変わらず無鉄砲だな。 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。 突如突風が吹き込むと同時に、幼い少女の嘲笑うかのような声が聞こえてきた。 「相変わらず光神様はおめでたい事。まさかあの言葉をそのまま信じてしまうなんて……」 何事かとディーワは振り返る。 と、そこにはいつの間にか一人の少女が立っていた。 彼と同様に長くとがった耳を持っていることから、長命種であることは明らかだ。 しかし、何よりも異質だったのはその背に黒い巨大な翼を持っていることだった。 厳重な警備と、幾重にも渡る結界が張り巡らされているのに何故。 そんなディーワの内心を読んだのか、少女は再び笑った。 「何でそんな目で私を見るの? 一緒にこの世界を支える存在だというのに」 「……では、そなたがアルタミラだと言うのか?」 けれど、ディーワはその言葉をにわかに信じることはできなかった。 その少女からは、『全ての調和者』らしからぬ禍々しい気を感じたからだ。 「……信じられない、という顔をしているわね」 そう言うと、少女はディーワに向かい歩み寄る。 あわてて立ち上がり近侍を呼ぼうとするのだが、その身体は凍りついたように動かない。 少女のすみれ色の瞳が、ディーワを捉える。 細い指先が、彼の銀髪を弄ぶ。 無邪気な微笑みを浮かべながら、アルタミラと名乗った少女は言った。 「全ては、偶然ではなくて必然。この世界は在るべき方向に向かっている。お利口なあなたならば、どうすればいいかわかるでしょう? 」 アルタミラは上目遣いにディーワの顔をのぞき込む。 その仕草からは、幼い外見からは似つかわしくない色香を感じさせる。 「もう我慢するのはおやめなさい。お友達みたいに、心の命じるままに生きればいいのよ」 言いながら少女はにっこりと笑う。<